この恋はきっと実らない。
それを承知で、どうして恋してしまったのだろう。
恋してはいけない、あの人を。

生まれてから今日この日を迎えるまで、何度春が過ぎ去っていっただろうか。
ある初夏の日の出来事。
僕は見てはならいものを……この目で見てしまった。

* * * * *

―――思春期を迎えても、僕に彼女ができることはなかった。
朝、洗面所で顔を洗うときにみる僕の顔は、客観的に見てそれほど悪いものじゃない。
人間、外見だけがすべてじゃないと思うけど、この顔のおかげで……といっては何だが、
色恋沙汰に不自由することはなかった。
女の子に告白されることは少ないことじゃなかったんだ。
中にはかわいい子も、きれいな人も、とても性格のいい、相性のいい娘だっていた。
―――だけど、僕はそんな彼女たちの中から、唯一の人を選ぶことはできなかった。

「ん……あんっ」

4LDKの一軒家、広くも狭くもないその部屋は少女にあてがわれた私室だった。
年頃の少女らしい、淡いピンク色を基調とした可愛らしいコーディネイト。
空間に広がる空気はどこか甘い香りがし、ベッド周辺には可愛いデザインの動物達が
所狭しとひしめき合っている。
窓のすぐそばにはベッドがあり、そのカーテンは今はしめられていて、
ベッドの上には二人の男女が絡み合う姿があった。

「……愛してるよ」

耳を澄ました僕の耳聞こえてきたのは、その部屋の主の声ではない。間違いなく男性の声だった。
小さく控えめにのぞき込んだそこには、信じがたい場景が広がっていた。
男が、少女を愛撫しながら甘い言葉をささやいている。
彼が彼女に手でふれるたび、言葉でふれるたび、少女は頬を赤くそめながら身を震わせる。
彼女が震えている理由は、恐怖ではない。愛する男性に心と体をふれられて、歓喜に震えているのだ。

ドアの外から情事をのぞいている。
僕にはわかった。彼女の思いが。
彼女がどれほど真剣に男性を愛しており、彼女がどれほどまでに
彼のことを―――求めているのか、ということを。
わからないはずがなかった。
生まれてこのかた、一番長い時間、彼女のことをただひたすら見つめづけた僕だから、
わかりたくもない……彼女の思いまで、知ってしまったんだ。

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